定点観測

2006年4月19日 恋愛
新緑が目にしみる季節
丘の上にある日本最古というY公園で
ワインを飲みサンドイッチを食べた
「遠くへ行かなくても楽しめるね、
定点観測しようか」
とあなたは言った

春が夏になり、秋になり、
午後の日ざしを深呼吸した日
うなじに触れられた手のひらが
あったかくてどきどきした

あなたが好き、
といつもつぶやいた
私はいろんなことを言うけど
あなたは黙っていた
それでも好きだからいいの
と思っていた
失うのが恐かった

あなたの汗の匂いが好きだった
苦いギネスのような匂い
ヒゲやしわの一本一本が好きだった
生き続けてきた年輪のような

縁あって
いっしょに空を見ていた
2005年の秋風を浴びていた
いのちの休日を並んで歩いた

30センチのきょりと礼儀をもって
観測し、観測されたい
どこまでも歩きたい
並んで歩きたい
あなたと
そう思っていたけれど
定点観測をふたりですることは
もうできない

新緑が目にしみる
あの日のあなたの息づかい
夕暮れの海辺の公園と藍色の空
海に浮かぶH丸と流れるジャズ
いまも目の端に新緑が輝き
耳の端からサックスが流れてくる

あなたは逝ってしまった
定点なんてなにもなかった
私が測っていたのはいつだって
あなたとの距離だったのかもしれない

新緑が目にしみて
く・る・し・い・よ

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