忘れえぬ地点
午後の日ざしが傾きかけた頃、「定点観測」といって通っていた思い出の公園をひとりで訪ねた。
観光名所エリアのはずれにあって、観光客は来ない、穴場である。今日も近所の子どもらが木登りしたり、犬の散歩の人が通ったり。私の好きな大きな木たち、それもいろんな種類の木があって、気が立ち込めている。なんたって日本で初めての洋式公園、1870年開園なんだから、木も育つはずだ。
丘の上にあるので、ふもとでビールを買う。酒屋のおばあさんがレトロなむかーしの冷蔵庫を自慢して「これ、100年前から使っているんだけどこわれなくてね、よーく冷えるのよ」なんて宮崎アニメに出てくる人みたいな口調で言ってた酒屋は見つからず。かわりになんとベルギービール「シメイ」を売っている店を発見! 感激して2本も買う。アルコール8%です。以前はなかった大阪たこ焼き屋ができており、ベーシックなたこ焼きも買う。
木漏れ日の中、木々を見上げながら、道を上る。新緑がまぶしく、草いきれ、におい立つ。
よくいっしょに腰掛けていたベンチにすわって、しみじみとビールを飲み、たこ焼きを食べる、変なおんなひとり。

あの日も草のにおいがしていた。桜の季節も美しかった。丘の上にはいつも風が吹いていた。日常の時間がゆるやかに流れていた。あの人はきれいな手で、ワインの栓を器用に抜いた。リュックから、サンドイッチの包みを出してくれた。
静かに過ごす散歩の時間をどれぐらいともにしただろう。
何月何日に来たかはもちろん、そのときどきのお互いの洋服だっておぼえている。

しばし風の中でうずくまっていると、ハンサムなお散歩犬に見つめられたので、もうよしとして立ち上がる。ヒマラヤ杉の小道を抜けて、反対側の観光地のほうに坂を下り、美味なるおしゃれな蕎麦屋に入る。ジャズがかかっている。ここで「ちょいと一杯セット」を注文する。辛口の日本酒1合と、突き出しはおいしい塩辛ともずく酢。おそばもついて1500円なり。この店には、夏と秋と2度、仕事帰りに逢って、入りました。
大して飲んでないが、こたえます。
夕方のにぎやかな商店街をぬけ、電車に乗り、ビデオ屋で「愛に関する短いフィルム」(1988年、ポーランド)をゆうべどなたかのレビューで読んでよさげだったので借りる。
久々に詩情あふれる、抑制の効いた映像作品を見た気がした。

節目のとき、気がほしいときに、また公園を歩こうと思う。ビールを買って。
ディテイルは忘れても、満ち足りた風のにおい、木のにおいを、わたしはけして忘れないだろう。それはもはやわたしの血の中の一部だから。もういいかい。もういいよ。

コメント

れんげ
れんげ
2006年5月6日0:54

やよ坊さん、男前や・・・(T_T)

すいれん
やよ坊
2006年5月6日1:03

なんで? しょうもないもん書いとるわー。公衆の面前で。って思うんだけど、まあ自分のために書いているので許してほしいと。。。
あの、れんげちゃんが書いていた下の名前の画数のやつ、見てみました。「情熱的で積極的です」だって。そうかも。

海晴さくら
海晴さくら
2006年5月6日18:27

ほんと男前ですっ。
やよ坊さんのそんな男前の部分に引き寄せられるワ・タ・シ(^^)

nao
2006年5月7日0:33

はじめまして。リンクありがとうございます(^^)
さわやかな雰囲気が文章から伝わってきました。この季節の公園っていいですね。犬とお散歩したいなあ。また寄らせていただきますね!

すいれん
やよ坊
2006年5月7日0:45

naoさま、映画専門レビューを読んで「愛に関する短いフィルム」を見ることができました。すばらしいサイトですね。これからひそかに探検させていただきます。

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