ほどける

「今日は予定があるんでしたよね?」とメールした。
返事がないのでコールしたけど通じず。
ややあって、「いま〇〇にいるんだよ。これから移動」

あたしがあんまり気落ちしていたのかしら、少しのちに
「やっぱり午後の予定はやめたよ。近くで会おう」
駅で落ち合う。
生え際が汗で光っていた。
「床屋に行く時間がないのね」と言った。
歩きながら
「きのうは久々に病院に行って、薬が変ったらすごくだるくてさ」と
いうので心配になってしまった。

あたしは体重も減って少しふらふらしていたのに
オリオンを2杯とマスターおすすめの「与那国」も飲んでしまう。
小ぶりできゅっとしまった沖縄うりずん豆のチャンプルーとシャコガイのうに和え、何日かずっと食べたかったマスターのジューシーをペロッと食べる。
なあんだ。食欲あったじゃん。

それから、午後の散歩をする。
「うちの氏神様の〇宮神社は商売っけがないんだよ」というので奥まったそこに行ってみる。たしかに。
それであるいていたらもっとディープな神社に出くわす。
沖縄でいえば御嶽のようだ。ひとけもなく。
お狐さんがそこかしこにかしいでいて、恵比寿様や獅子や猿もいたりなんかして
、上っていくとどんどんすごいパワースポットが現れ、驚愕。
このあたりは昔海だったといい、中世の山城もあったのだが、
船乗りたちの鎮魂のための女神様も小さな祠にまつられていた。　
山頂のほこらで、文句を三回念じて願い事をしてから石を持ち上げたら叶うというので、彼の健康と長生きを願った。
ヤマトの宅配便のお兄さんが参拝していて
「ここを守ってきたおばあさんに手入れを頼まれたんですよ」というので
驚いた。いろんな話をしてくれた。なんだかその人はマスターに似ていた。
日が沈むころで、夕焼けに富士山の先っぽが見えた。
また来よう、こんな近くに何十年も住んでいたけど知らなかったな、と
もうふはいった。
今日はすごい発見だったね、といって部屋に帰った。

それから、また少しだけビールを飲んで、バスタブにお湯を入れた。
髪を念入りに洗ってあげる。地肌をマッサージ。きもちいい、という。
うれしい、と思う。
あたしはこのひととずっといっしょにいたら、どういうことになるのかしら。
ほどける日。